2003年5月12日

ペプチド薬を多量に含む遺伝子組換え米の作出システムを開発
~試験管レベルでインスリン分泌促進を確認 ~

日本製紙株式会社 独立行政法人 農業生物資源研究所 株式会社三和化学研究所

日本製紙株式会社(本社:東京都千代田区、社長:三好孝彦 [以下、日本製紙])と、独立行政法人 農業生物資源研究所(茨城県つくば市、理事長:岩渕雅樹 [以下、生物研])は共同で、ペプチド薬を多量に含む遺伝子組換え米を作出するシステム開発に成功し、現在までに発見されている様々なペプチド薬を米に蓄積させることが可能となりました。

さらに、同システムを利用し、株式会社三和化学研究所(本社:名古屋市東区、社長:山本一雄 [以下、三和化学])と共同で、インスリン分泌を促すペプチド薬「GLP-1」を多量に含む米の作出に成功し、また、この米に蓄積している「GLP-1」が試験管レベルでインスリンの分泌を促す活性を持っていることを確認しました。この米は、2型糖尿病患者向けの医療食として、需要が見込まれます。

厚生労働省の調査によれば、国内の糖尿病患者数は約690万人、予備軍まで含めると約1,600万人と推定されており、この内の9割は生活習慣が原因である2型糖尿病と考えられています。人間の体内で血糖を下げる役割をしているのが「すい臓」から分泌されるインスリンと呼ばれるホルモンです。糖尿病は、様々な要因でこのインスリンの分泌が悪くなるか効かなくなることで血糖を下げることができず、体に障害をもたらす病気です。「GLP-1」は、体内においてインスリンの分泌を促すホルモンの一種であり、糖尿病患者ではこの「GLP-1」が少なくなっていると言われています。

今回、開発した遺伝子組換え米は、日本製紙の開発した遺伝子組換え技術「MATベクターシステム」、および生物研の開発した「米へのペプチド蓄積システム」を組合せた融合技術を用い、三和化学の「ペプチド=デザイン技術」によって作出した、多量のペプチド薬「GLP-1」を含む米です。糖尿病患者は、インスリンを注射するなどして血糖を下げていますが、日本人の主食である米から「GLP-1」を摂ることで、インスリンの分泌が促され血糖が下がるものと考えられます。このような米の開発に成功すれば画期的なことであり、2型糖尿病患者に朗報をもたらすものと期待しています。なお、今後、2~3年で有効性、安全性などを検証し、商品化を目指す予定としています。

なお、以上の研究開発は、生物系特定産業技術研究推進機構(埼玉県さいたま市、理事長:堤 英?驕jからの委託を受け、新事業創出研究開発事業の一環(コンソーシアム1:健康機能性作物、技術コーディネーター:独立行政法人農業生物資源研究所 高岩文雄)として実施したものです。

 

<用語解説>

[MATベクターシステム]
日本製紙が開発した遺伝子組換え技術。通常の遺伝子組換え技術では、組換えに成功したものと失敗したものを見分けるため、目的遺伝子とは別に抗生物質耐性遺伝子も同時に組み込む必要がありました。この組換え方法であれば、抗生物質耐性遺伝子は必要なく、目的とする遺伝子のみを導入することができます。従って、ペプチド薬を多量に含む遺伝子組換え米には、抗生物質耐性遺伝子は残りません。

[ペプチド]
アミノ酸がある種の結合(ペプチド結合; -CO-NH- )を介してできる化合物の総称。

[糖尿病]
糖尿病はそのタイプによって1型と2型に分けられます。

<1型糖尿病>
自己免疫疾患やウィルス感染により、すい臓のインスリンを出す細胞が破壊されてしま い、インスリ ンの 分泌がほぼゼロになってしまうタイプです。小児や若年層に多く見られる糖尿病で、生活習慣病 とは関係ありません。

<2型糖尿病>
主に生活習慣病と呼ばれる糖尿病はこのタイプです。すい臓からのインスリンの分泌が低下してい たり、インスリンの効果が出にくくなっているもので、日本では圧倒的に2型糖尿病患者の方が多く なっています。

[インスリン]
すい臓にある特定の細胞から分泌され、血糖を下げる作用を持つ唯一のペプチドホルモンであり、ブドウ糖を消費する筋肉へそのブドウ糖を運びやすくしたり、ブドウ糖からグリコーゲンや脂肪への合成を促したりしています。

 
以上