1999年6月21日

木材チップ片のDNA分析により樹種識別に成功

日本製紙株式会社

日本製紙は、製紙原料である木材チップ片から遺伝情報をつかさどるDNA(デオキシリボ核酸)を抽出分析し、木材チップの樹種を特定することに成功した。

生長が早く製紙原料として広く利用される「ユーカリ」には、600以上もの種や変種があると言われている。これらは形態的にもよく似ており、種によっては立木を目で見て区別することさえむずかしい。しかし原料適性の面では、同じユーカリ種の中でも、同量のパルプを作るのに必要とするチップにおよそ倍の開きがあるなど、紙原料に適しているのはユーカリグロブラスに代表される数種類にすぎず、紙・パルプ企業にとって、原料樹種の選択は製造コストや資源保護の面から非常に重要な問題である。しかし、これまでは港に陸揚げされたチップから樹種の確認は難しく、輸出元の情報に依存するしかなかった。また製紙原料チップには、製材屑や端材などの森林資源も広く利用されるため、混入樹種を判別することはさらに難しかった。

DNAは親から子へ伝わる遺伝情報であり、個々の個体や種ごとで不変の領域と異なる領域が存在している。したがってこの異なる領域を見つけることで、種の違いを判断することができる。
当社では、葉緑体DNA上にあり、光合成における炭酸固定の役目をする酵素「リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ」の遺伝子(rbcL遺伝子)の塩基配列をさまざまな樹種から決定した。これを比較して、樹種ごとで異なっている領域を見つけた。これを利用し、DNA断片中の変異を再現性良く高感度に検出することのできる PCR-SSCP法(*注)により、樹種ごとの違いを簡便に検出できる方法を構築した。
具体的には、まず試料よりDNAを抽出し、先に決定したrbcL遺伝子の塩基配列の中で樹種ごとに違いのある部分をPCRにより増やして、SSCP分析を行い、各樹種を視覚的なDNAバンドパターンで分類できるようにした。この方法では、DNAに含まれる遺伝情報は、その生物の状態に影響されないため、種子、林地の樹木あるいは港に陸揚げされたチップなど、いずれの状態であっても、樹種を識別できる。

日本製紙では、今回開発した技術で、陸揚げされたチップや植林用種子が適性であるかどうかの管理に利用したいと考えている。
なお、この樹種識別方法については、国内特許の出願をすでに完了している。

(*注) PCR-SSCP法(Polymerase Chain Reaction Single Strand Conformation Polymorphism)
PCR 微量のDNAサンプルから目的とする特定の領域のDNAを短時間で数十万倍に増幅する方法。この方法により、ユーカリチップのひとかけらや、葉100mg程度のサンプルより識別に供試するのに十分な量のDNAが得ることができる。
SSCP PCRで増幅した二本鎖のDNAを熱変性し、一本鎖にした後、非変性ポリアクリルアミドゲルで、電気泳動をする。
DNAは電気的にマイナスに荷電しているため、プラス極に向かい移動する。 一本鎖DNAはゲル中で分子内相互作用により、特有な高次構造を形成し、一塩基でも配列が異なると分子内結合が変化し、高次構造に違いがでる。
このような高次構造の違いは、電気泳動上、移動度の差として検出される。

 
以上