銅イオン担持セルロース「Cu-TOP®」

身の回りのさりげない場所で活躍することを目指して

富士革新素材研究所 CNF研究室Ⅱ
船津啓

富士革新素材研究所は紙のまち富士市で、再生可能な「木」から得られる木材繊維(パルプ)を原料とする新製品・新素材を革新的に研究開発しています。「抗ウイルス・抗菌・消臭等」の性能を持つ銅イオン担持セルロース「Cu-TOP®」の研究開発拠点です。

富士革新素材研究所(静岡県)

身の回りのさりげない場所で活躍することを目指して

日本製紙は消臭、抗菌、抗ウイルス性を有する新しいセルロース素材「Cu-TOP®」を開発している。

応用範囲が広く、さまざまな条件下でも機能性を発揮

Cu-TOP®は、「Cu(銅)を担持したTEMPO酸化(oxidized)パルプ(pulp)」の略称です。天然素材であるセルロースに銅イオンを高濃度で担持することで、消臭・抗菌・抗ウイルスといった機能性を持たせた新しいセルロース素材です。紙や不織布はもちろん、最近は和紙糸の開発にも力を入れており、Cu-TOP®を配合した和紙を糸状に加工することで、消臭・抗菌・抗ウイルス性を持つ和紙糸を製造しています。この和紙糸を使ったハンカチやタオル、靴下、衣類など、さまざまな製品への展開を進めています。特に靴下は、実際に試作したものを履いてみると、普通の靴下と比べて消臭効果の違いがはっきりと分かります。ASKULのECサイトでも入院患者向けのアイテムが販売されています。※1

他社製品と比べて、Cu-TOP®はセルロースと銅というシンプルな構成のため、応用範囲が広く、さまざまな条件下でも機能性を発揮できるのが強みです。フィブリル化した木質繊維の面積に銅イオンが高密度で担持され、低配合量でも十分な機能性が期待できます。また、Cu-TOP®の和紙糸は糸そのものに機能性があるため、消臭剤や抗菌剤を後塗りする製品と比較すると、加工工程をシンプルに出来る可能性もあります。

求められる異なるニーズに応えるため

和紙糸自体は綿、ポリエステルとの交撚品を含めて販売可能で、和紙糸を活用した製品も多角化が進んでおり、展示会などでも多くの反響をいただいています。今後はさらに多くの分野でCu-TOP®の機能性を確認・実証し、「効果を実感できる高付加価値品」として拡販を進めていきたいと考えています。

また、まだ見ぬCu-TOP®の可能性についても探っている段階で、さまざまな機能の検証も進めています。

「当たり前」になる未来を目指して

Cu-TOP®の研究では、実際に試作してみて初めて分かる課題や、お客さまごとに異なるニーズに応えるための工夫が求められます。お客さまと深く関わりながら、さまざまな業界のニーズ・知見を得られることが大きなやりがいです。

一方で、Cu-TOP®の機能性アップ、コスト、保管期間の延長など、改善すべき点もあります。これらの課題をクリアし、より多くの方にCu-TOP®を使っていただけるよう取り組んでいます。

今後は、身の回りのさりげない場所、例えば電車やバスといった公共交通機関のシートなど、さまざまな場面でCu-TOP®が活躍することを目指しています。消臭・抗菌・抗ウイルスといった機能が、日常の「当たり前」になる未来を目指して、これからも開発を続けていきます。

インタビューを受ける船津さん
左)パルプ状のCu-TOP® 右)Cu-TOP®を配合した和紙糸

※1:入院患者向けのアイテムはこちらでご覧いただけます。(詳細はこちら

取材日:2025年5月27日
企画:バイオマスマテリアル・コミュニケーションセンター
写真:日本製紙株式会社