放牧と元気森森®で元気な母牛と子牛を増やす
前田牧場
前田竜一氏(熊本県)
黒毛和牛の繁殖農家7年目、たった一人で母牛50頭、子牛30頭を世話する熊本県天草市の前田さん。広大な敷地で母牛たちは自由に動き回っている。「牛と関わりすぎない」ことで牛のストレスだけでなく、人間の手間も減らしている。人も牛も幸せになる牧場経営について話を聞いた。

最初は母牛5頭、子牛1頭からのスタート

私は天草市の苓明高校(現・拓心高校)の園芸科学科、熊本県立農業大学校で学び、菊池郡の帆保畜産・球磨郡の有田牧場で経験を積んで天草に戻ってきました。経営者になりたいと思っていましたので7年前に離農農家から母牛5頭、子牛1頭を買い取り、中古牛舎を借り上げスタートしました。肥育は人手と設備が必要だろうと思っていましたし、天草は黒毛和牛の繁殖が多い地域なので始めやすかったというのもあります。令和3年には補助事業を活用して新牛舎を建設し、母牛を増やしました。昨年褐毛和種(あか牛)を5頭増やし、現在は母牛50頭です。子牛はだいたい常時30頭くらいいます。天草では獣医、人工授精師、受精卵移植師の高齢化や数が不足していることがあり、自分で削蹄、人工授精、受精卵移植、妊娠鑑定までやるようになり、少しずつ形になってきました。
母牛に適した「密度と運動」のため分けて管理
母牛の管理で大切なのは「密度と運動」だと考えています。ここでは母牛を大きく妊娠確定から分娩2か月前までの「維持期」と分娩2か月前から産後の妊娠確定までの「周産期」に分けてそれぞれ放牧を活用しています。
6ヘクタールの放牧場付き新牛舎
新牛舎には6ヘクタールの放牧場があり、周産期の母牛と出荷する子牛がいます。周産期の母牛と離乳前の子牛は、放牧場を自由に動き回っています。エサの時間になると食べたい牛は牛舎に戻ってきます。
母牛の分娩が近くなると個室を与え放牧はさせず産後は生まれた子牛と一緒に妊娠確定まで過ごします。


オリーブ畑だった山を利用した10ヘクタールの放牧場

ここでは維持期の母牛を放牧しています。もともとオリーブ畑だったので、今でもオリーブの木が残っています。敷地の一番上に小屋と水場を作りました。南西向きの斜面なので、冬は日差しがたっぷりで、夏は気温が35度くらいまで上がりますが、山の上ですし、海風があるので、過ごしていけるようです。また、牛たちは「過ごしやすい場所」を自分でわかっています。

春から秋は放牧で自由に草を食べ、冬には刈り取っておいた草や購入した粗飼料を小屋で飽食させています。配合飼料は少し加える程度です。とにかく手をかけないで維持期は過ごします。ほとんど草だけで6か月以上過ごしているので、牛舎に戻ると自然と増し飼いになってお産への準備が進みます。
元気森森®を給与後、空胎期間が減少
稲わらが欲しいと思っていた時に、元気森森®の広告を新聞で見ました。「センイがワラの代わりになるのでは」と思って問い合わせたのが始まりです。実際に商品説明を聞くとワラの代替ではなくエネルギー補給用途で基礎体力をアップさせる餌だとわかりました。朝は元気森森®0.75キロとSGS*1.5キロ、夕方は元気森森®0.75キロと配合飼料を1.5キロ与えます。足りなければ粗飼料を追加しています。
与えてみるといいことばかりです。まず種どまりが良くなり、受精回数が減りました。給与前は平均すると着床まで1.9回ほど受精回数が必要でしたが、今では平均1.3回です。空胎期間が明らかに減りました。
*SGS:飼料用米ソフトグレインサイレージ
子牛の状態が良化し出荷平均体重も増加

生まれてきた子牛にも違いがみられます。元気森森®のおかげで母牛の基礎体力がアップし母体が健康になり母乳の成分も良くなっているのでしょう。毛の艶や色が良くなり基礎体力が上がって風邪を引きにくくなり、健康に過ごしています。多少鼻水が出ていても気にしません。人間の子どもと一緒で、赤ちゃんのころなんて鼻水が多少出ていても大丈夫だと思っています。全体の様子で判断します。
おととしの7月から母牛に元気森森®を与えて効果を実感出来たので、今年の4月から元気森森®を出荷する子牛に離乳後から給与を開始しました。最初は配合飼料メインで、3.5キロの配合飼料が食べられるようになったら、一握り程度の少量から元気森森®を追加して与えていきます。オスは5キロ、メスは4キロの配合飼料にプラスして元気森森®を0.75キロ与えます。足りなければワラやチモシーを与えます。開始後、与えた子牛の腹に深みが出てきて、背中の幅が広くなったことを実感しています。実際に、4カ月間給与した牛を出荷した8月ころから評価が変わってきました。10月にはほかの農家や購買者から「やり方変えたの?」「今までと違っている」と言われ出荷平均体重も10㎏程度増加しました。初めから子牛へ給与して置けば良かった、と後悔しています。
牛と関わりすぎない

牛にとって一番のストレスは人間です。ですから牛と関わりすぎないようにしています。小屋や牛舎に戻ってこなくても気にしません。複数戻ってこなくても群れでどこかにいるだろうと思っています。でも一頭だけ戻ってこないという場合は探しに行きます。実際、木の枝に鼻の紐が引っかかって動けなくなっていた牛がいました。探しに行ったら切なく鳴いていたので、救出しましたよ。
お産も牛温恵*とカメラで監視しますが、基本自分で出産させます。羊膜が見えてから2時間たっても進まない場合はお手伝いしますが、毎回ではありません。放牧で運動をしっかりしているせいかお産も軽いようです。未経産の牛だけは気を使います。
*牛温恵:親牛を温度センサーで監視し「分娩の約24時間前」「1次破水」「発情の兆候」を検知しメールで知らせるシステム
元気森森®を使って本当に良かった
元気森森®を使い始めて自分の牧場の牛が変わりました。母牛の栄養摂取効率が良くなり、いろいろな良い面が出ていると実感しています。繁殖農家にとって子牛の成績がいいことは励みになります。将来的には頭数を増やし、牛舎をもう一棟建てたいと思って今は頑張っています。

聞き手:日本製紙 バイオマスマテリアル・コミュニケーションセンター
取材日:2024年12月10日
写真:日本製紙撮影