セレンピア®スペシャル対談
株式会社スペックホルダー 大野泰敬
日本製紙株式会社バイオマスマテリアル販売推進部 李讃榮(イ チャニョン)
「日本のフードテックで一番優れているのは日本製紙のセレンピア®」と講演で紹介するほどセレンピア®に惚れこむ大野さん。「世界中の人々がセレンピア®によって、食べ物のロスを減らしておいしく食べられるのが目標」と目を輝かせる李さん。二人がセレンピア®について熱く語ります。

セレンピア®とは何か
大野:まず、セレンピア®とは何なのか、簡単に説明していただけますか?
李:セレンピア®は木の繊維から作られる素材で、セルロースナノファイバー(CNF)と呼ばれています。木材繊維を微細化することで作られるもので、繊維が何千本も絡み合った状態を解いて取り出した「糸」のようなものです。私は主に食品用途のセレンピア®を担当していますが、化粧品や工業用途にも広く利用されています。
大野:繊維を「ほぐす」感じですか?
李:そうです。作り方としては、木材から取り出したパルプに化学処理と超高圧の物理処理を施して、絡み合った繊維をほぐすイメージですね。それによって細かい繊維がCNFとして抽出されます。

日本製紙だけの技術
大野:その技術は日本製紙だけが持っているものですか?
李:CNFに関しては他社もさまざまな取り組みをしていますが、食品用途で使用可能なCNFを製造しているのは日本製紙だけです。食品添加物としての規格に合致するものを提供できるのは当社のみという点で、独自の技術と言えるでしょう。
大野:食品添加物として使えるCNFは日本製紙のセレンピア®だけなのですね。
セレンピア®の主な効能
大野:セレンピア®が持つ効能や効果について詳しく教えてください。
李:セレンピア®は細かい繊維が網目状のネットワークを形成することで、保水性、気泡の安定性、分散安定性、乳化安定性や保形性などの機能を発揮します。
保水性とその実例
大野:では最初に保水性について詳しく教えてください。
李:セレンピア®は、ほかのセルロース製剤と比べて約6倍の保水性を持っています。たとえば、冷凍食品では解凍時にドリップが出にくくなり、味が劣化しにくくなります。パンの場合では、水分の移行を抑えることでしっとりとした食感を保ち、日持ちが向上します。
大野:最初に採用されたのはどら焼きですよね。

李:そうです。どら焼きの生地にセレンピア®を加えると、水分が餡子に移行せずに生地がふっくらとしたままになります。これにより、日持ちが向上します。
大野:品質が維持できると賞味期限も延長できる?
李:田子の月さんでは賞味期限が延長できました。それ以外に他社でご評価いただいているのは製造過程における歩留まり向上です。水が抜けにくくなって、製造する釜やタンクのふちに原料が乾燥してくっつく量が減り、その分歩留まりが上がるので、製造における無駄が減ったそうです。
気泡安定性の効果
大野:次に気泡安定性ですが、なぜ安定するのですか。
李:繊維のネットワークが気泡をキャッチして、きめ細かく弾力のある状態を維持します。たとえばパンでは、この機能によってふっくらとした仕上がりが可能になります。特に米粉パンはグルテンがないため膨らみにくいのですが、セレンピア®を使うことでボリューム感を出せます。また、卵の使用量を減らしたカステラでも、セレンピア®のおかげでふっくらした状態が保たれます。
大野:米粉で作るパンのボリューム感を出せるのは大きな利点ですね。ホイップクリームにも使えますか?
李:大得意です!いちごが乗っても沈まないクリームになります。また、クリームを冷凍した場合でもセレンピア®を使えばドリップや油の分離を防ぎ、品質を維持することができます。

保形性と乳化安定性
大野:保形性と乳化安定性についても詳しく教えてください。
李:保形性に関しては、たとえばパンのボリュームを維持するのに役立ちます。とあるパンメーカーさんのコッペパンにも採用されています。乳化安定性については、水と油を混ぜたときに安定した乳化状態を保てるという特徴があります。セレンピア®を0.5%添加するだけで長期間安定した乳化状態が続き、風味を損なわない乳化が可能です。
セレンピア®の多機能性とユニークさ
大野:セレンピア®の効能は多岐にわたりますが、特に注目すべき点は何ですか?
李:セレンピア®は単一の効能ではなく、複数の効能を一度に提供できる点が大きな特徴です。粘性がありながらもさっぱりとした食感を実現できるため、ほかの食品添加物にはない特長があります。
大野:たくさんの効能が一つの添加物で得られるのは珍しいですね。
李:CNFがネットワークを形成することで、ほかのガム類にはない特長的な粘性を持たせることができ、食感を邪魔せずに求める効能を発揮します。
FOODEX JAPANでの出会い

大野:私がセレンピア®と出会ったのはFOODEX JAPANというイベントでした。植物由来のセレンピア®にさまざまな効能があると知り、大変驚きました。私がこの中で特に注目しているのは、保水性と気泡安定性です。どちらも賞味期限を引き延ばせるのでフードロス対策になります。また小麦の入手が困難になる、もしくは価格が高くなってきたときに国産米粉の活用が重要になってくるので、セレンピア®によって米粉が使いやすくなると素晴らしいです。
李:ありがとうございます。セレンピア®はたくさんの効能があるため、さまざまな分野での応用が期待されています。
日本製紙と食品添加物
大野:なぜ製紙会社が食品添加物を作っているのですか?
李:当社は木を原料とする事業がメインです。木から得られるパルプは純粋なセルロース、つまり繊維です。このセルロースを活用したものが食品添加物です。セレンピア®を製造している江津工場では、半世紀以上前から粉末セルロースやCMC*などの食品添加物を作っています。
*CMC:カルボキシメチルセルロース
大野:セレンピア®の素晴らしい点は、木を原材料にしていることです。木を切った後に木を植えることで再生可能な原料です。それに若い樹木のほうがCO2をたくさん吸収するので環境対応にもなりますね。
李:最近では成長が1.5倍速く、CO2の吸収量も1.5倍多い「エリートツリー」を社有林に植えています。社有林では区画を分けて順番に伐採し植林していくので、全体のCO2吸収量が高いまま維持できます。森林には水源のかん養や山地災害の防止という役割もありますので持続可能な森林経営は重要です。
大野:セレンピア®が普及していくことが、森林の活用そして保全につながるのですね。国土の7割を森林が占める日本にとって、とてもいいことです。
李:さらに言えば、増粘剤の中には穀物から作られるものがありますが、セレンピア®は木を原料にしているので、人間の食物と競合しません。人間が食べない木から生まれたセレンピア®が、人間が食べるものをおいしくするという点はほかの増粘剤との大きな違いです。
これからの販売戦略について
大野:今後の戦略はどのように考えていますか。
李:二つあります。一点目は新しい用途開発です。多様な効能で使い方が広がり、採用が増えていますが、セレンピア®は新素材です。まだ見つかっていない使い道があるのではないかと思っています。これからも新しい活用方法をユーザーと一緒に見つけたいです。そして二点目が、海外進出です。私が海外出身ということもありますが、今後は海外への販売も力を入れていこうと考えています。世界中の人々がセレンピア®によって、食べ物のロスを減らしておいしく食べられる、というのが個人的にもチームとしても目標です。
大野:セレンピア®の使い方は公開されているのですか。
李:お客さまからいただいた声を元として作ったレシピ集がホームページからダウンロードできます。
大野:日本のフードテックで一番優れているのは日本製紙のセレンピア®だ、と講演で紹介しています。世界にも出ていけると思っていますので頑張ってください。

企画:バイオマスマテリアル・コミュニケーションセンター
取材日:2024年9月30日
写真:御菓子庵田子の月、株式会社スペックホルダーおよび日本製紙株式会社