SPOPS研究室 スペシャルコンテンツ

素材メーカーの開発者と
若手スタートアップ起業家が
本音で語る
「サステナブル時代の
モノづくりのあり方」

野田 貴治

日本製紙株式会社
紙パック営業本部
紙パック営業統括部
営業開発グループ

2004年に日本製紙㈱に入社。紙素材・容器の研究・開発・マーケティングを担当。自身が一から開発に携わっている化粧品・日用品向け紙容器「SPOPS(スポップス)」は「トレたま年間大賞優秀賞」をはじめ各賞を受賞。趣味は楽器演奏。

山内 萌斗

株式会社Gab
代表取締役 CEO

2000年、静岡県浜松市出身。
シリコンバレーを訪れた際に、人類の存続に必要不可欠な「must haveな事業」をつくることを決意。「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」ことをミッションに掲げ、株式会社Gabを創業。ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」やSDGs特化型メディア「エシカルな暮らし」、エシカルアイテムに特化したコミュニティ型の実店舗「エシカルな暮らしLAB」とそのオンラインストアを運営中。「正しさよりも、楽しさ。」がモットー。

製紙業界のリーディングカンパニー、日本製紙で働くこと約20年のSPOPS開発者。
エシカル業界では名の通った、注目度上昇中のスタートアップ起業家。
まったく立場の異なる二人がそれぞれの立場で実現したいこと、
そして一緒に取り組むことで、さらに広がる可能性を語ります。

木とともに未来を拓く、
総合バイオマス企業として

木を育てるところから
ものづくりまで

日本製紙さんの目指す企業の在り方やどういったビジョンをもって事業活動されているのか教えてください。

野田

日本製紙は紙を作る会社ではありますが、紙の原料である木を育てるというところから事業を行っています。また紙製品だけではなく、紙を加工したパッケージ、さらに木質資源をベースにした新素材の製造、販売といった事業を展開しています。その中で日本製紙グループは「木とともに未来を拓く、総合バイオマス企業」というスローガンのもと、「事業活動を通じて持続可能な社会の構築に寄与する」、「お客様のニーズに的確に応える」、「社員が誇りを持って明るく仕事に取り組む」、「安定して利益を生み出し社会に還元する」の4つが日本製紙の目指している企業像になります。

森林から環境づくりへ

森林資源や環境問題との関わりについて、どういった取り組みがあるのか教えていただきたいです。

野田

「事業活動を通じて持続可能な社会の構築に寄与する」という面で森林を作っています。北海道から九州までの全国各地域において、社有林等を育成・管理・保護し、地域の希少な植物を保全するといったことを行い地域に貢献しています。また、海外においてもブラジルやオーストラリア等で植林を行っています。モノづくりでは、プラスチックに代替えできるような環境に優しい素材・製品を開発しております。

身近な脱プラスチックを
楽しい給食から

パッケージ素材の工夫

色々なものを紙にしていくという視点も世間的に増えていますが、プラスチックの置き換えなどはどういったものがあるのでしょうか?

野田

世の中には色々なパッケージ素材がありますが中身を保護するという大事な性能が伴うため、単純に紙にすればいいかというとそういうわけでもないのです。紙には、空気や水分を通してしまうため、食品の品質を長期に保つことができないなどの問題点がありますが、それを克服するために紙に酸素や水蒸気を通しにくいバリア性を持たせたシールドプラスというものを開発しており、高級ホテルのお菓子の袋に使っていただいています。また、紙に熱で密封できるヒートシール性を与えたラミナというものも開発し、ティシューの袋に使われていますが、これはコピー用紙と同じようにリサイクルできます。

School POP®の可能性

では製品の活用事例についてお話いただけますでしょうか。

野田

紙パックを使ったものでご紹介したいものがあります。3年前くらいから脱プラのニーズが高まっていますが、その中でストローなしで飲める学校給食用の牛乳パックSchool POP®を実現させました。従来の学校給食用の牛乳パックはストローなしで飲もうとすると、そもそも開けて飲む構造になっていないので開けるのが難しかったり、無理に開けても中身がこぼれやすかったりしました。しかし、牛乳パックの構造を工夫することでストローを使わないで飲めるという牛乳パックを開発し、これまでに多くの自治体に採用いただいています。今年の4月からはさらに採用自治体が増え、15の都府県、約200の市町村で使用される予定です。

詰め替えから差し替えへ

詰め替えをもっと楽に、
もっと環境に優しく。

プラスチックから紙化を行った製品はSchool POP以外にどのようなものがありますでしょうか。

野田

現在、私が力を入れているもので紙パックを用いた、詰め替えをもっと楽にできるSPOPSというものを開発しお客様にご紹介しています。従来の容器の中に詰め替えを注ぎ入れるという作業はなく、SPOPSはシャンプーが入った紙パックをカートリッジのように交換するだけで補充作業を行うことができます。

注ぎ入れる手間を
0にして差し替えへ

実はこのSPOPSの開発の親は野田さんだというところですが、これを着想し商品化する際にどういう風に社内で動いてどういった体制で始まったのかお伺いできますでしょうか。

野田

このSPOPSというのは実は私が以前研究所にいたときに、業務改善などをグループで行う活動の中で、普段使っているものを便利にしよう、シャンプーの詰め替えを何とかしよう、とメンバーで話をして、開発に至りました。自分自身、詰め替えパウチはなぜ使いにくいのだろうと考え、詰め替えの作業自体が面倒くさいということに気づき、詰め替えそのものをやめよう、と。うちには紙パックがあるからそれごと交換しようというので紙パックのカートリッジという形が生まれました。それを、会社内でも面白いと賛同を得られスタートしました。

既存のリソースを生かして牛乳パックをひっくり返して、形を工夫することで、詰め替えの手間を0にしてしまうというすごいアイデアですね。

野田

実は開発のポイントは二つあって、一つはカートリッジのように交換することです。当初は直方体の容器を考えていましたが、その中で使い終わった後の残量が多いという指摘がありました。これを解決するため、二つ目のポイントである牛乳パックをさかさまにするというアイデアに帰着しました。この二つが面白いと思ってもらえる要素になっていると思います。

カートリッジの開発秘話。試行錯誤を繰り返して

SPOPSを開発していくうえで技術的な苦労やハードルなどを合わせて伺わせてください。

野田

いかに楽に詰め替えをするかとなったときに、どの向きにカートリッジを入れても詰め替えができるように牛乳パックの底にあたる部分の真ん中に穴をあけるというのが絶対条件でした。普通の紙パックは真ん中に紙の重なり部分があるため穴があけられないので、その重なり部分を端っこにもっていくのが最初の関門でした。また紙の切り口と液体が触れ合わないように紙とはさみで試行錯誤をしながら組み立て方を考えました。そしてそれらが工場で作れるのかどうか、というようにステップアップしていきました。

SPOPS®のビジョンの広がり

社内外のいろんな人を巻き込んで協力していくうえで野田さんとして心がけていたことはお有りですか。

野田

いかに面白く、世の中に役に立つかを皆さんに共感してもらうことが大事だと思っていました。

環境負荷の観点はどのように出されていますか。

野田

プラスチック量がどれだけ減るかというのが一番わかりやすい指標です。シャンプー本体から詰め替え用のパウチにすることでプラスチック重量が70%~80%削減、SPOPSはこのパウチと比べても25%〜40%削減できております。

いまの浸透度合い、ブランドにおける活用事例、使っていただいているお客様の声など、見えてきているところについてお伺いできればと思います。

野田

SPOPSの価値というのは使いやすくなるだけなく、環境にも優しい、これらが両立できるというところだと思います。いろんなブランドさんがいち早く商品化したいと声をかけてくださり、消費者の方も狙ったところに価値を感じてくださっております。使ってもらわないと価値というのは感じてもらえないのでこれをいかに皆様にわかりやすく伝えていくかが、今後大切だと思っています。

SPOPS®が描く未来

今後野田さんとしてSPOPSをどのように広げていって、どんな進化をさせたいか、などをお伺いできればと思います。

野田

地球環境に貢献できるというのは大事な視点で、あと開発の原点であるすごく便利だということを多くの人に知ってもらいたいです。触ってもらえれば便利さに気づいてもらえ、どんどん使ってもらえるようになると思っております。将来的にSPOPSに対応した外側のケースが雑貨店で、中身がドラッグストアなどで販売されると、好きなデザインの容器と好きなブランドの中身を自由に組み合わせられるということになったらすごくいいなと思っております。

山内さんがお感じになられた感想はいかがでしょうか。

山内

こちらの商品をエシカルな暮らしに置かせていただいているのですが、今までにない形の容器なのでそこの引きは強いなと、一回手に取ったうえで説明するとお客様が感動されて、今では店頭在庫は完売しています。便利だし環境にも配慮されていて夢のある商品だなと思っています。将来的には、様々なコラボ容器など人々のニーズに合わせて自分の好きを追求しながら、というのも面白いですし、そこらへんの前提の環境配慮はクリアできている商品だなと感じますね。

「事実」として
社会課題解決につながる
「エシカルな暮らし」

事業をするなら、
マストハブかどうかが大事

山内さんの起業のきっかけについて教えてください。

山内

大学一年生時にシリコンバレーでのプログラムに参加し、人類規模でマストハブな事業を目指すアメリカの起業家の影響を受けました。帰国後、ビジネスコンテストで掲げた渋谷のポイ捨て問題を深く考え始め、いずれマストハブな事業になるポイ捨てを0にするという問題に可能性を感じて、起業しました。

ポイ捨てを0にしたい、
と追いかけた道

起業後、現在のエシカルな暮らしというサービスをどのように着想したのでしょうか?

山内

ポイ捨てを無くすという人類規模のソーシャルビジネスを作りたいというのが根本の考えとしてあります。まず取り組んだ渋谷のポイ捨て問題では、そもそも渋谷にゴミ箱が少ないということが挙げられました。その理由としては、事業ごみとしての管理費用がかかることが分かり、これを解決するために、ゴミ箱に企業の広告を張り、ポイ捨ての多い箇所に配置するというゴミ箱のパッケージ化を考えました。しかしながら、コロナ渦の影響でゴミ箱の広告収入の減少やゴミ箱の有無に関わらずポイ捨ては存在するということから、「ゴミ箱を置かずともポイ捨てを減らす方法はないだろうか」、「モノの売り方、作り方そして消費者の抜本的意識を変える仕組みを作れないだろうか」という2つの仮説を立てました。そこからゲーム感覚ゴミ拾いイベント清掃中とエシカルな暮らしという事業を立ち上げました。

ポップアップで人気に火がついた

エシカルな暮らしの成長の軌跡やストーリーについてお聞かせください。

山内

エシカルな暮らしはインスタグラムのアカウントとECサイトの運用を行いました。メディアでフォロワーを増やしてリーチを担保したうえで、一定のコンバージョン率を作りECサイトで製品を購入してもらうというKPIを設定するといった事業構想でしたが、ECサイトでは、エシカルな製品の売り上げが右肩上がりではなく、別の方法を模索しました。そして、宮下パークの人の通らない一角の価値の上昇を考えていた三井不動産様との協業で、エシカルな暮らしにとって初めてのポップアップを開催しました。大勢のフォロワー様が来てくださり、1か月でECサイトの5倍以上の売り上げを達成しました。エシカルな製品は、コンテンツバリューはあるのでSNSでの受けは非常に良いのですが、今までにない新しい素材なのでその良さはオフラインで実際に体感するしかないということに改めて気づきました。その後、ポップアップを立て続けに開催して、昨年の9月からはエシカルな暮らしラボという常設店を立ち上げました

サステナブル時代の
素材のあり方

エシカル×パッケージ

様々なメーカーさんと関わる中で、パッケージの課題についてどのように考えているのでしょうか?

山内

それぞれの素材の特性を活かして、最適な選択をしていくことが大事だと思います。社会的に脱プラ、脱炭素がいろんな企業が掲げているメイントピックとなっており、また「プラスチックは悪」という論調もあり、エシカルな商品なのにプラスチックを使っているのはなぜかという意見も多く寄せられます。どちらが優位であるかという決着がついてないからこそ、企業側も選択できないことが多いと感じるので、業界で納得できる解を出すことが大事であると個人的には思っています。

野田

大事なこととして、プラスチックも紙もどちらが良くてどちらが悪い、ということではなく、それぞれの素材の特徴を評価する判断材料となるデータが示されているかどうかだと思います。そういった点が乱雑になっているという風に感じています。

山内

事実として社会問題の解決につながる商品であるという基準を設けて、選定したり認証したりすることで、消費者にとって購買が特別な経験になるのではないかと思います。今の世代は、コンテンツ性を重視する傾向があり、購買した製品をSNSにアップして、自分の消費者としての像を構築するといった部分がありますよね。

今出来ていないこと、も含めて開示していく大切さ

野田

製紙メーカーという立場としても、科学的なデータや環境に対するインパクトを適切に評価しなければならないと感じています。

山内

現段階では、情報の切り取り方でイメージが変わってしまっていて、消費者リテラシーが追い付いないかも知れません。情報をニュートラルな視点ですべて開示したうえで、情報から何かしらの選択を行う人がバイアスを受けずに情報を受け取れるような情報媒体が必要であると思っています。企業もできていないことも含めてデータをすべて開示して、社会全体がより良い方向に向かっていくといった社会的なムーブメントを作っていく必要があると思います。

素材の調和と裏側の透明性

今までの話を踏まえて、現場の小売りを見ている視点から、日本製紙さんのような大手の製紙メーカーに向けて、どのようなことを期待していますか?

山内

素材を適材適所で使用して、素材の調和を社会的に実現していくといったスタンスをとってほしいと思っています。裏側の透明性の担保といった点で、消費者・労働者の声や企業側の理想を開示した上で、議題を掲げ議論し方向性を示していってほしいです。

野田

開示している部分は多くありつつも、実感値として伝わっていない部分があることから考えると、伝え方も大事なのかなと思います。企業側としては、マイナスの部分をも伝えているつもりなのですが、消費者側が納得できる形で伝わるコミュニケーションが必要だと感じています。

見た目、機能性があるうえでのエシカルさ

エシカルな暮らし様では、日本製紙さんの紙のソリューションや取り組みを展示するブースを設置されていましたが、最前線でのお客さんの反応はいかがでしたか。

山内

日本製紙さんが作られている脱プラソリューションは、紙を使うことにおける炭素の循環サイクルが早く、化石燃料より環境負荷が低いというロジックに加えて、紙をリサイクルしてごみを減らすといった取り組みを展示しまして、非常に前向きにとらえたいと考えているお客様が多かったです。今後はこのソリューションがより広がっていけば良いと思います。エシカルな製品にとって、コンテンツの奥深さが非常に大事だと思っていて、容器が脱プラやリサイクル可能であるだけでなく、中身の素材が無農薬であったり、オーガニックであったり、三次元的なアプローチで、一つの製品の中でエシカル度がより深まり、優位性が深まると思っています。エシカルだけではモノは売れなくて、見た目と機能性がしっかり成立しているのが前提で、エシカルについての奥行きの深さがないと購入されないのかなと考えています。

サステナブル時代に
どのようにして
製品開発を
おこなうべきか?

暮らしと社会の大きなルールが変わっていくタイミング

大手企業様との関わりも増えてきていると思いますが、大手企業とエシカルという文脈の中で、今のトレンドや関わりが増えていることについて、感じることを教えていただけますか。

山内

ルールが変わるタイミングであるなと感じています。今までのルールの中で素晴らしいビジネスを作り、それゆえに大企業となり安定期に入っている実態があると思っていますが、その基盤となっているようなルール自体がサステナビリティや気候変動などの文脈で抜本的に変わっています。それゆえ、今までの強みが弱みになったり、無効になったりして、新たに考えなければならないことが増えていると感じることが多いです。エシカルな暮らしに関しては、ルールが変わっていく時代に生まれた会社なので、ルールの変化と消費者の反応に対するラグが少ない状態で、事業基盤を作れています。ルールが変わるタイミングで気づいたことやラグなく捉えていることは、既存の仕組みを変えていく中で必要な情報になると思っています。既存のアセットを持たれているところと協力して、お互いのニーズを合わせながら一緒に協業していくことが必要であると思っています。また、ルールを変えるタイミングに乗ってくれた企業様は長期的に生存していけるようになるのではと考えます。

野田

日本製紙というモノづくりの上流にいる企業にとって、ブランドや消費者に求められるものにとても身近、というわけではありません。現場で奮闘されていて、消費者の生の声を多く聞かれている皆さんとの密なコミュニケーションは、必ずプラスになる事だと思っています。

エシカルなカルチャーを実体をもって広げていく

エシカルなカルチャーを日本で実体を伴った形で広めていくために、お二方が今やれること、やっていること、取り組みたい事としてどのようなものが挙げられますか。

山内

エシカルな暮らしとしては消費者実態の把握が最優先事項だと思います。エンドユーザーとのハブにエシカルな暮らしがあって、より広げていくような仕組み開発を行っていこうと思っています。

野田

最近、大手消費財メーカー同士が協業を行いまして、使用済みの詰め替えパウチを回収するという事業があり、業界としてはセンセーショナルでした。その後も業界として協業が進み、また行政を巻き込んで、現在では仕組化しつつあります。紙はもともとリサイクルされる仕組みをもっています。せっかくあるこの仕組みが活躍する場面をもっともっと広げていきたいと思います。

山内

今までのビジネスのルールだと見せるところ見せない所を決めるといったコミュニケーションが重視されていたので、突っ込めないことはありました。見せないことを作る事で、知財や利益を確保しない部分はあるのかもしれませんが、限界まで透明性高く情報を開示した先にどのような世界が広がっていくのか、それが両者にとってどのような利益があるのかという像を構築したうえで、色々なものの透明性が担保されていて時代に必要なものが生み出される世界を作っていきたいと考えています。

消費財の世界では、各ステークホルダーが一つ先のサプライチェーンのステークホルダーのことしか知らないため、サプライチェーンで統合されたモノづくりが行われておらず、情報も開示されにくく、消費者のニーズに本来的に対応した商品が生まれにくい、という部分もあるのかもしれません。日本製紙さんのような素材メーカー、消費財メーカー、流通業者、エシカルな暮らし様のような小売りが協業していくことで、バリューチェーンを横断するようなモノづくりがおこなわれていくことを期待しています。