セルロースナノファイバー「セレンピア®」

良いものを、より多く、より安く

富士革新素材研究所 江津駐在
中村泰隆

島根県江津市にある江津工場は、山陽と山陰を結ぶ河川交通の要中国地方最大の河川である江の川の河口に位置しています。2017年に稼働を開始した量産設備でセレンピア®は製造されています。

富士革新素材研究所(島根県)

長い歴史と新しい技術の融合で生まれたセレンピア®

セレンピア®にはさまざまな機能がありますが、代表的そして特徴的な機能として、増粘性を紹介します。セレンピア®の増粘性は混ぜる速さで粘性の数値が変わるという特性があります。たとえばゆっくり混ぜると粘性があがりどろどろに、早く混ぜると粘性がさがりさらさらになります。これはほかにない性質です。

そして食品添加物規格に適合し、食品・化粧品用途で安心してご使用頂ける点も、江津工場で生産される「セレンピア®」の強みです。さらに、独自の高度な固形化技術によって、水への再分散性が良好な粉末品であることは大きな特徴です。CNFの機能を十分発揮するためには、CNFが水中できちんと再分散することが重要なのです。CNFという素材は世の中にいくつか種類がありますが、江津工場のCNFは食品に使えるほど安全で、粉末品であることが強みです。

木材チップ、CMC、セレンピア

製造プラントは、FSSC認証*、ハラール認証、ISO9001、ISO14001を取得しています。社外の専門の認証機関からお墨付きをいただいた、衛生管理がしっかりされた設備環境にて製造しています。

*FSSC認証:Food Safety System Certification=食品安全システム認証

プラントにつけられたハラール認証プレート

良いものを、より多く、より安く

私の業務はセレンピア®の製造・生産管理に加え、 「良いものを、より多く、より安く」をモットーにさまざまな改善活動にも取り組んでいます。
「良いものを」は、品質です。製品には規格が定まっています。例えば増粘剤としての粘度は非常に大事な要素で、測定値の範囲にしっかり入るように、狙って製造をします。
「より多く」は、生産性です。販売実績は確実に増えてきていますので、今後もお客さまの要望にしっかり応えられるよう、装置・設備の安定化や管理などを進めています。
「より安く」はコストダウンです。いくら良い製品を生み出せても、あまりに高かったら、買っていただけません。無駄を省いて、製造にかかるお金を少しでも安くする、というのは常に工場の全メンバーが持っている使命です。

協力して問題を解決できる達成感

セレンピア®はじめ、CNFそのものが、皆さまにご使用頂き始めてから、まだ日が浅い新しい素材です。 「これまでに誰も作ったことが無い素材を作る・世の中に送り出す」という業務に携わることができるのが大きい醍醐味です。安定操業が一番ですが、正直トラブルもゼロではありません。場合によっては、誰も直面したことが無い、つまり、解決方法が分からないものもあります。そんな時は場内だけでなく、研究所や本社に問い合わせ、協力して問題解決にあたってきました。さまざまな関係部署に、幅広い分野におけるプロフェッショナルが存在しているのは心強いです。皆の力を合わせて、課題をクリアした時の達成感は非常に大きいです。

誇りをもって製造できる現場を

私は生産の管理を中心に携わっていますが、実際に現場でモノを産み出してくれているのは操業を担当するオペレーターです。オペレーターの技術なくして製造業は成り立たないので、お互いのコミュニケーションを大切にしています。

例えば、目標数値を達成できた時などに、彼らと一緒に心から喜ぶ瞬間を味わえる瞬間は「この仕事をやっていて良かった」と思えます。これからも一緒に課題に対して悩んだり、成功体験を積んだりして、製品を世の中に送り出す瞬間を共有していきたいです。セレンピア®にかかわるメンバーが誇りをもって製造に携われる現場を作りたいと思います。

セレンピア®をもっと世の中に広め身近な存在に

セレンピア®はまだまだ成長できる製品です。原料である木材は、持続可能かつ、日本が豊富に保有している資源で、日本製紙が培ってきた技術力を最大限に発揮できる素材です。昨今、世界的に重視されている環境配慮型・サステナブルな産業構造にもマッチしている点も追い風だと思います。

多くの機能があると言いましたが、実際に、私がセレンピア®の製造に携わる中でも、「こんな機能があるんだ!」「こんなものにも使われるんだ!」と、日々新しい発見を与えてくれています。だからこそ、セレンピア®はこれからもっと世の中に広まるポテンシャルがあると信じています。将来的には、「こんなところにも使われているんだ!」と思ってもらえるような、身近な素材になれることを期待しています。

取材日:2025年10月30日
企画:バイオマスマテリアル・コミュニケーションセンター
写真:日本製紙株式会社