セルロースナノファイバー「セレンピア®」
ナノテクノロジーが拓く未来:石巻工場が挑むCNF 「セレンピア®」の可能性
石巻工場 CNF開発推進室
2017年4月よりCNF量産プラントの操業を開始した石巻工場では、革新的な新素材セルロースナノファイバー(CNF)「セレンピア®」の製造に取り組んでいます。
石巻工場(宮城県)
まずは簡単な自己紹介をお願いします。
遠藤:CNF開発推進室の遠藤です。工場で製造しているCu-TOP®を含むCNF製品の管理全般を担当しています。
三浦:CNF開発推進室の三浦です。CNF製品の製造管理全般として、生産計画や原材料の発注、修繕工事計画などを担当しています。
木村:CNF開発推進室の木村です。CNF製品の製造オペレーターを担当しています。
加賀谷:CNF開発推進室の加賀谷です。完成した製品の品質分析を担当しています。
田村:富士革新素材研究所の田村です。駐在員として石巻に常駐し、開発、品質管理、処方設計を担当しています。
セレンピア®とは:革新的なナノ分散技術
具体的な特徴を教えてください。
遠藤:石巻工場で製造される「セレンピア®」は、TEMPO触媒酸化法を用いたセルロースナノファイバー(CNF)です。TEMPO触媒による特殊な酸化反応により、セルロースミクロフィブリルの表面を選択的に酸化し、マイナスに帯電させます。このマイナス電荷の反発作用を利用し、機械的なシェアを加えることでCNFへと解きほぐすことが可能です。
田村:石巻のCNFは完全ナノ分散していることが特徴で、主に工業用途をターゲットに開発を進めています。
用途開発の軌跡:シーズ型開発から自動車用途への展開
セレンピア®はどのような経緯で用途開発していったのでしょうか?
田村:セレンピア®はシーズ型(技術志向)の開発だったため、様々な用途を検討してきました。なかでも、量が見込める自動車関連用途をターゲットとしてきました。塗料の顔料の分散安定剤として採用実績があり、タイヤへの配合も開発を進めています。
多品種生産と品質安定化への道のり
CNF製品の品質安定操業を確立するまでに、どのような試行錯誤がありましたか?
遠藤:ユーザーの要望規格に合わせた特殊品が数種類あり、多品種小ロット生産となるため、製造効率が課題となっていました。
三浦:ラボレベルでの実験結果と実機でのスケールアップでは品質結果が異なることがあり、実機に合わせた製造処方の調整が必要です。また製品ごとに品質保証期間があるため、ロスが出ないような組み合わせや製造順序を常に検討し、生産計画を頻繁に更新しています。
遠藤:また、製造工程の最終段階で物性が規格を外れると全量が廃棄となるリスクがあります。それまでの製造時間が全て無駄になるという事態が、操業開始当初は発生していました。製造担当者としては、非常に心苦しい経験でした。製造ノウハウの見直しを根本から進め、CNF物性に大きく影響を及ぼす主原料パルプをいかに使いこなすかが大きな課題でした。
田村:製品の主原料はパルプであり、天然素材であるため、チップ材の配合や季節影響などにより品質変動があります。そのため、原料パルプ受け入れ時のチェック体制を強化することで、最終製品の品質安定に努めています。
木村:CNF製品は原料の変動が品質に敏感に影響するため、意見を出し合い、一つ一つの積み重ねで操業の確立までに時間を要しました。現在は品質安定操業を確立できたことで、品質エラーが減少傾向にあります。
高付加価値CNFを支える製造・分析のプロ意識
CNFの品質を支える上で最も重要なことは何ですか?
木村:お客様の要望に対応した製品規格の順守が重要な課題です。CNFは規格外になった場合、原料として再利用できないため、製造オペレーターとしては緊張感の維持が求められます。高付加価値品の製造を担当しているという意識を持ち、収率にこだわってオペレーションしています。
加賀谷:分析機器や測定項目が年々増加しており、覚えるのが大変な反面、ユーザーが増加しているため、大きなやりがいを感じています。
専門性を結集したチームが支えるCNFの安定供給と品質
品質以外の点でどのような工夫や課題がありますか?
遠藤:出荷業務に関しては、構内協力会社の尽力が欠かせません。CNFは水分を多く含むため、輸送コストが高く、梱包方法にも工夫が必要です。輸送コストの最適化は、構内の輸送会社と協力しながら取り組んでいます。 顧客ごとに異なる荷姿への対応が求められるため、協力会社との連携を通じてノウハウを蓄積しています。
田村:石巻工場は、お客様に安定した品質の製品を供給するため、CNF関連製品として2019年にISO 9001(品質マネジメントの国際規格)の認証を取得しました。ガイドラインに則り日々PDCAを回しながら、品質管理体制の向上と顧客からの信頼獲得に努めています。
遠藤:CNF製造プラントを立ち上げるにあたり、メンバーは様々な紙製造の部署から集まっています。それぞれの経験値や専門性を活かし、強固なチーム体制を築いています。
CNFが拓く無限の可能性
CNFの今後に関して期待している点を教えてください。
田村:自動車関連用途のほか、量の見込める土木用途や農業用途での実用化に向けた検討が進んでいます。今後は蓄電池のセパレーターや電極の分散材など、電池関連分野での応用可能性を追求していきたいと考えています。
遠藤:高付加価値化とコストダウンの両面で研究開発を進め、「何にでも使える」というCNFの可能性を形にしていくことが期待されていると認識しています。
困難を乗り越え、ナノテクノロジーのさらなる高みを目指す
石巻工場は、CNF「セレンピア®」の製造において、用途開発から品質安定化まで、多くの困難を乗り越えてきました。少数精鋭のチームが、天然素材の特性と向き合い、ナノテクノロジーの無限の可能性を追求し続けています。
インタビュー参加者
CNF開発推進室 遠藤 真司
CNF開発推進室 三浦 繁之
CNF開発推進室 木村 巧
CNF開発推進室 加賀谷 泰幸
富士革新素材研究所 石巻駐在 田村 直之
取材日:2026年2月16日
企画:バイオマスマテリアル・コミュニケーションセンター
写真:日本製紙株式会社
