特別寄稿「迫りくる食の危機」Vol.3「ピンチをチャンスに」

特別寄稿「迫りくる食の危機」シリーズの最終回は「ピンチをチャンスに」です。

第一回では私たちの食料安全保障の現状、第二回ではそれを取り巻く数多くの課題を取り上げました。
これらの課題は日本だけでなく全世界が直面しています。このような状況の中で日本の食料自給率向上と持続可能な食料システム構築に向け何ができるのか、考えていきましょう。

迫りくる食の危機

株式会社スペックホルダー
代表取締役社長 大野 泰敬

1) サプライチェーンの変革

日本の食のサプライチェーンは、農業、畜産、漁業といった各分野において独自の発展を遂げてきました。これらのサプライチェーンは、長い歴史の中で形成された複雑な流通経路や取り組みによって特徴づけられています。しかし、少子高齢化、労働人口の減少、国際市場での競争激化など、時代の変化によってこれらの既存のサプライチェーンには多くの課題が浮上しています。これらの課題は、一方でピンチとも言えますが、別の視点からは日本の食のサプライチェーンを再構築し、持続可能な食料システムへと変革する大きなチャンスとも捉えられます。

農業分野では、伝統的な卸売市場を中心とした大量物流の流通経路が基盤をなしていますが、近年では輸出を含めた流通の多様化が進んでいます。これに伴い、生産から流通、販売、消費まで一連のプロセスでのデータ連携を通じた効率化が図られています。しかしながら、労働人口の減少や農地の適正管理といった課題も顕在化しており、これらを乗り越えるための新たな取り組みが求められています。

畜産業界においては、「国消国産」の理念の下、国内で消費される畜産物を国内で生産することを目指したサプライチェーンの構築が進められていますが、飼料の安定供給が畜産物の生産を支える重要な要素であり、その安定化への取り組みが重要です。しかし、国内での飼料生産が困難な場合、国際市場の価格変動の影響を受けやすくなり、畜産業のサプライチェーンにもリスクが生じます。

漁業分野では、持続的な発展を目指す水産バリューチェーンの構築に向けた取り組みが進められています。これには、国内販路の回復と日本産水産物の輸出拡大が重要な戦略となります。しかし、国際市場での競争激化や漁業資源の管理、環境保全といった課題に直面しており、これらを克服するための持続可能な漁業の推進が求められています。

日本の食のサプライチェーンは、現在、歴史的な転換期に直面しています。労働力の不足、国際競争の激化、環境問題への対応といった課題は、既存の仕組みを見直し、持続可能な食料システムへの変革を迫っています。このピンチをチャンスと捉え、デジタル技術の導入、新たなビジネスモデルの開発、国内外のパートナーシップの構築などを通じて、農業、畜産、漁業それぞれの分野で効率的かつ持続可能なサプライチェーンの再構築を進めることが、これからの日本の食料安全保障を支える鍵となります。

※新しいサプライチェーンの仕組みが今求められている。

2) 二つの重要なポイント

日本の食料安全保障を支えるにあたり、餌の確保とエネルギー供給の持続可能性は、今後さらに重要性を増していきます。これらは、食料生産システムの基盤を形成し、日本の食料安全保障の強化において中核を担う要素であるためです。以下に、これら二点が最も重要である理由を掘り下げていきます。

餌の確保は、畜産業の持続可能性と直接結びついています。畜産物は日本を含む多くの国の食料供給において重要な役割を果たしており、適切な餌の供給がなければ、肉、乳製品、卵などの生産量が著しく減少し、国民の食料供給に大きな影響を与える可能性があります。餌の供給に影響を及ぼす主な要因には、気候変動、国際市場での価格変動、資源の枯渇などがあり、これらはすべて食料安全保障へのリスクを高めます。そのため、飼料作物の生産性向上、効率的な飼料管理、また低コストで良質な飼料生産体制の確立が重要となります。

※飼料、魚粉などのえさの安定供給が食料安全保障上の重要なポイント。

エネルギーは、農業から消費者の食卓に至るまでの全過程で必要とされる基本的な資源です。農業機械の動力源から食料の加工、保存、そして輸送に至るまで、エネルギーの効率的な利用は食料生産の安定性を保つ上で不可欠です。エネルギー不足や価格の高騰は、食料生産コストの増大を引き起こし、最終的には食料価格の上昇や供給の不安定化につながります。さらに、エネルギー使用による温室効果ガスの排出は気候変動を加速させ、これが再び食料生産に悪影響を及ぼすという悪循環を生み出します。したがって、エネルギー使用の効率化や再生可能エネルギーへの転換は、気候変動対策としても重要であり、食料生産の持続可能性を高めるために不可欠です。

※エネルギーがなければ、畑を耕すことすらできない。

これらの理由から、餌の確保とエネルギー供給の持続可能性は、日本の食料安全保障を支えるために最も重要な二つの要素となります。これらの要素の確保と効率的な管理を通じて、持続可能な食料生産システムの構築が可能となり、食料安全保障の強化が実現します。今、日本はこれらの課題に直面しており、ピンチをチャンスに変えるために、革新的な取り組みが求められています。

3) 地域の優秀な企業との連携

日本各地には、一般にはあまり知られていませんが、地域経済を支え、技術革新を牽引している中小企業が数多く存在します。これらの企業を私は「忍者カンパニー」と呼んでいます。その名の通り、彼らの活動は公にはほとんど表れることがありません。しかし、その影響力と技術力は計り知れないものがあります。

これらの中小企業がもつ可能性の根底には、長年にわたって地域ごとに築かれてきた産業基盤があります。各地域には特有の産業クラスターが形成され、そこから生まれる技術やノウハウは、その地域特有のものであり、簡単には模倣できないほど独自の特徴をもっています。特定の地域が長い歴史の中で培ってきた食品加工技術や発酵技術などがその例です。これらの技術は、単に技術としての価値があるだけでなく、地域が長年にわたり培ってきた文化や伝統にも根ざしています。例えば、海産物が豊富な地域では、独自の加工技術が発展し、その地域資源を活用した食品製造が盛んです。また、農業が盛んな地域では、それを支える食品加工技術が発展しており、地域の産業構造に深く根ざした産業クラスターが形成されています。

さらに、これらの企業がもつ技術力を支えるのは、地域に根ざした多くの支援機関です。各都道府県には産業を促進するための機関が存在し、大学や研究所、財団などが連携してこれらの企業を支援しています。これにより、地域の中小企業は世界市場でも競争できるレベルの製品を創出することが可能になっています。

日本全国に散らばるこれらの中小企業がもつ未開拓の潜在力に目を向けることで、新たなビジネスチャンスが開ける可能性があります。彼らとの連携を模索し、共に新たな価値を創造していくことが、これからの日本経済において重要な鍵を握るでしょう。これらの中小企業と積極的に協力し、彼らの技術力を活かした事業展開を進めることが、地域経済だけでなく国全体の発展にも寄与するはずだと私は考えています。

4) 最後に

日本の食料自給率はカロリーベースで38%という非常に低い水準にあります。この比較からも明らかなように、GDPランキング2024 TOP10 の国々の中で、アメリカは132%、中国は95%以上、イギリスは70%、フランスは125%、ドイツ約101%、インド105%、カナダ202%、ロシア124%、ブラジル103%と、日本の自給率の低さが際立っています。

日本の食料安全保障は現在、多くの外部要因によって脅かされており、その中には人口増加、気候変動、経済の不確実性、エネルギー問題、原材料費の高騰化、そして労働人口の減少などがあります。これらの課題は、日本だけでなく全世界が直面している問題であり、持続可能な解決策を見出すことが急務です。しかし、これらのピンチをチャンスに変えることができる可能性も秘めています。特に、地域の中小企業や異業種間の連携による技術革新、資源の効率的利用、そしてサプライチェーンの再構築によって、食料生産の持続可能性を高めることが可能です。また、餌の確保とエネルギー供給の持続可能性に焦点を当てることで、日本の食料自給率の向上と安定供給を目指すことが重要です。

私たち一人ひとりがこれらの情報を知り、考え方を変えることから始めれば、社会全体での意識改革を促進し、より良い未来へと進むための第一歩となります。異業種間の連携による新たなビジネスモデルの創出や、地産地消に基づく食料消費の促進は、危機をチャンスに変えるための鍵となり得ます。これらの取り組みは、単に食料安全保障の問題を解決するだけでなく、経済の活性化や新たな雇用機会の創出にも繋がります。

このように、日本は危機の中にも大きなチャンスを見出すことができる状況にあります。一人ひとりが自身の行動を見直し、地域社会や異業種との協力を深めることで、持続可能な食料システムの構築と食料安全保障の強化を実現できるでしょう。この挑戦は、私たち全員にとっての希望であり、明るい未来への道を切り開くチャンスだと私は考えています。

第3回で「飼料の安定供給が畜産物の生産を支える重要な要素であり、その安定化への取り組みが重要」との提言がありました。

日本製紙は木から生まれた牛のエサ「元気森森®」を提供しています。国内の原料を使って国内生産しているため、安定品質・安定供給できる飼料です。

元気森森®について

3回にわたってお届けした「迫りくる食の危機」、いかがでしたか。皆さまの感想をぜひお聞かせください。

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