環境・社会(CSR)第三者意見

第三者意見
上智大学経済学部教授 上妻 義直
上智大学経済学部教授
上妻 義直

[略歴]
上智大学大学院経済学研究科博士後期課程満期退学後、名古屋工業大学助手、オランダ政府給費によるリンパーク研究所客員研究員、静岡県立大学経営情報学部助教授、上智大学経済学部助教授を経て現在に至る。環境省、経済産業省、国土交通省、内閣府、日本公認会計士協会等のCSR・環境関係の審議会、検討会・研究会等で座長・委員等を歴任。2017年度「環境報告ガイドライン改訂検討委員会」委員長。




企業報告の品質を知る上で重要なチェックポイントの1つは報告バウンダリーの適切性です。上場会社の場合、財務諸表が連結ベースで作成されるのと同様に、任意開示のCSR報告書でも報告バウンダリーは企業集団全体をカバーして設定される必要があります。この単純で当たり前のルールに沿ったバウンダリー設定が困難な日本企業が多い中で、日本製紙グループの完全連結ベースによる報告書作りは貴重な事例であり、中でも非連結子会社を含む主要生産拠点のすべてを報告対象組織とする環境情報に、透明性の高さを際立たせている同グループの徹底した実態開示姿勢が集約されています。
さらに、バリューチェーンでの活動には特筆すべき取り組みが多く見られます。現代のCSRマネジメントではバリューチェーンを管理範囲に含めることが一般的ですが、その対応が形式的であったり、有効な実態を伴っていないことも少なくありません。しかし、日本製紙グループの場合は、事業活動がバリューチェーンに与える影響と課題について、多面的な評価を継続的に実施しており、今年度はそれをSDGsとも関連付けています。また、サプライチェーンリスクの重要な管理ツールであるCSR調達では、アンケートやヒアリングによる情報収集だけでなく、違法伐採材を排除するための重層的な調査・確認手続きや、人権と労働への配慮をサプライチェーン全体で徹底するために調達担当者が現地で目視確認するチェック項目の設定など、高度な取り組みが行われています。
今年度、新たに目を惹いた報告事項として、取水に関わる水需給リスクの評価結果があります。これまでの水マネジメントは主として水質面にフォーカスしていましたが、グローバルには工場等の取水による地域水系への深刻な影響が水リスクの本丸であり、これを低減する環境マネジメントが求められています。ただし、今回の開示情報からは、よりリスクが高い海外生産拠点の状況がわからないので、今後の改善が望まれます。なお、ステークホルダー・持続可能性・事業活動への影響を3Dに統合したマテリアリティ評価も、そのユニークな発想が今年度の評価ポイントです。
今後の課題としては、昨年度も指摘事項であった障がい者雇用率の向上と、協力会社・工事業者に対する労災防止対策の強化があります。とくに前者は、法定雇用率が未達成である上に、経年的にも低下傾向にあり、さらに、2018年4月以降、段階的に法定雇用率が引き上げられることが懸念材料になっています。

第三者意見を受けて

日本製紙(株) 代表取締役副社長兼CSR本部長 山崎 和文
日本製紙(株)
代表取締役副社長兼
CSR本部長

山崎 和文

CSR報告書では、日本製紙グループのCSRへの取り組みを開示しています。CSR報告書2017では、バリューチェーンのなかで当社グループに関わりの深いSDGsを示すとともに、これらのSDGsを意識しながら中長期の視点で研究開発を進めていることを明らかにしています。また、開示情報の充実とわかりやすさの向上のため、コーポレートガバナンスに関する記事などをさらに充実させる、排気ガス・排水処理工程をイラストで解説するなどの改善に引き続き努める一方で、ガイドラインとの対照表やデータ編などをウェブ上のみで開示することにより、全体としてはスリム化しました。
上妻先生からは、報告バウンダリーの適切性やバリューチェーンでの活動、CSR調達の取り組みなど、当社グループのCSRへの取り組みをご評価いただきました。これまで一歩一歩改善を積み重ねてきた結果と受け止めていますが、一方、昨年度もご指摘をいただいた障がい者雇用率や、労災防止策のような課題も残っており、さらなる改善努力が必要であることを強く認識しました。
今後も、社会と共生する企業の責任を果たすべく、CSRに取り組んでいきます。本報告書について、皆さまからの率直なご意見・ご感想をいただきたく、よろしくお願いします。