木とともに未来を拓く 日本製紙の社有林
1 はじめに:未来へ繋ぐ森の恵み
日本製紙グループは、日本有数の森林所有企業として、国内外に約16万ヘクタールもの社有林・植林地を管理しています。私たちは、木材を伐採するだけでなく、植栽・保育を行い、長い年月をかけて「伐採、植栽、保育」のサイクルを回す持続可能な森林経営を実践しています。
一般的に「持続可能な森造り」と聞くと、木を植えることだけを想像しがちです。しかし、健全な森を維持し、その恵みを未来へと繋ぐためには、長い年月をかけた計画的な手入れと維持管理に多くの労力を注ぐことが不可欠です。森は、清らかな水を育み、土砂災害から大地を守り、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収し、そして多様な命が息づく生物たちの揺りかごとなる、かけがえのない存在です。これら多岐にわたる「多面的機能」は、自然のままに保たれているように見えても、実際には人間の計画的な管理によって支えられています。

2 日本製紙グループの社有林:日本の森を未来へ
日本製紙グループは、日本国内に約9万ヘクタール(約400カ所)の社有林を保有しており、これは民間企業で国内第2位の規模です。これらの社有林は、持続可能な森林経営のもと、木材資源の供給だけでなく、災害防止やCO2の吸収、生物多様性保全や水源涵養などの多面的な機能を発揮しています。
各地域の社有林の概要(2023年末時点)

北海道:約44千 ha(エゾマツ・トドマツ、カラマツ、広葉樹など)
シマフクロウ保護区も設定されています。
東北:約11千 ha(スギ、カラマツ、広葉樹など)
関東:約5千 ha(スギ、ヒノキ、広葉樹など)
菅沼社有林(群馬県)ではシラネアオイの活動を支援しています。
中部・近畿: 約7千 ha(スギ、ヒノキ、広葉樹など)
3 日本の林業の現状と課題
I. 日本の林業の歴史
日本の林業は、国土の約3分の2を占める豊かな森林資源とともに発展し、特に戦後造成された人工林は、現在その約6割が50年生を超え、本格的な利用期を迎えています。かつては木材供給の主要な役割を担っていましたが、高度経済成長期以降の輸入材の増加により、国産材の利用は低迷しました。しかし近年、国産材の供給量は増加傾向にあり、令和5年には木材自給率が43.0%に達するなど、国内林業は新たな局面を迎えています。
II. 日本の林業の課題
現在の日本の林業は、林業従事者の高齢化と減少、高い伐採・造林コスト、獣害対策費の増加といった複数の課題に直面しています。これらの要因が再造林率の低迷を招き、適切な森林管理を困難にしています。また、木材価格の低迷も林業の収益性を圧迫し、持続的な経営を困難にしています。これらの課題は、森林の多面的な機能の低下や、地域経済の衰退にも繋がる可能性があります。

III. 人工林のメンテナンスの必要性
日本の人工林は、適切な手入れが不可欠です。植栽後の下刈りや間伐といった保育作業を長期間にわたって行うことで、森林は健全に成長し、木材としての価値を高めます。メンテナンスを怠ると、森林が荒廃し、土砂災害のリスクが高まるだけでなく、生物多様性や水源涵養能力の低下にもつながります。人工林の適切なメンテナンスは、森林の多面的な機能を持続させ、林業の活性化にも繋がる重要な取り組みです。
4 日本製紙グループのグリーン戦略:持続可能な森林経営への挑戦
日本製紙グループは、「木とともに未来を拓く総合バイオマス企業」として、持続可能な森林経営を基盤とした「グリーン戦略」を推進しています。これは、健全な森林を育て、余すことなく活用し、バイオマス製品を拡大することで、企業成長と社会課題の解決を同時に実現するものです。国内外に保有する約16万ヘクタールの森林を適切に管理し、5つの取組によって木材資源の安定供給と多面的な価値提供を両立していきます。

5つの取り組み
① 国産材利用の推進と国内林業の活性化
日本政府の「森林・林業・木材産業によるグリーン成長」方針に基づき、「伐って、使って、植えて、育てる」という循環を支援し、国内最大級の木材サプライチェーンを構築しています。製紙原料の国産材利用率は2024年度で36%と業界平均(26%)を大きく上回り、国産製紙用木材チップの使用量は国内トップレベルです。また、低質材のカスケード利用※や、社有林を実証フィールドとした林業技術の向上にも貢献し、木材関連事業の営業利益拡大を目指しています。
カスケード利用とは
高品質な木材を建材や家具などの「製品」として使い、その後に残った部分(端材、廃材)を、より低い品質の用途(紙の原料、ボード材など)へ段階的に利用し、最終的には燃料(バイオマス)としてエネルギー利用まで使い尽くす、資源を余すことなく有効活用する考え方・手法です。

② エリートツリーの普及による造林コスト削減と生産性向上
林野庁、自治体、森林組合、苗木生産事業者と連携し、成長が早くCO2吸収能力に優れた「エリートツリー」の苗生産・普及を進めています。エリートツリーは、従来品種に比べ成長性が1.5倍以上で、下刈り作業の軽減や伐採期間の短縮(50年→30年)に貢献し、林業の生産性向上と課題解決を図ります。2030年度までに年間1,000万本の生産体制を構築し、国内林業再生のモデルを構築します。
エリートツリーとは
エリートツリーとは、成長が早く、CO2吸収能力に優れ、花粉量が少ないなど、従来の品種に比べて優れた特性を持つスギやヒノキなどです。主に国立研究開発法人森林研究・整備機構などの公的な研究機関によって開発された品種であり、日本の林業が抱える造林コストの高さや人手不足といった課題を解決し、林業の生産性向上に貢献することが期待されます。例えば、植栽後の下刈り作業の軽減や、伐採期間の短縮(標準的な50年から30年へ)が可能となり、早期の資金回収にも繋がります。

苗を育てるとは
エリートツリーの苗を育てることは、未来の森林を創るための重要な第一歩です。種子の生産から始まり、発芽、育苗、そして植栽に適した苗木へと成長させるまでには、専門的な知識と細やかな管理が求められます。温度や湿度、光の管理はもちろん、病害虫からの保護、適切な肥料の管理など、多くの過程を経てようやく一本の苗木が育ちます。この地道な作業が、健全な森林の基盤となり、持続可能な林業を支えます。
日本製紙グループの「採種園と採穂園」
日本製紙グループは、エリートツリーの普及を推進するため、苗の生産体制構築に力を入れています。北海道、本州、四国は種から苗を育てる「採種園」、九州は親木から採取した穂からさし木で育てる「採穂園」を設置し、エリートツリーの種穂の安定生産から苗生産期間の短縮、歩留まりの向上まで、一貫した技術開発と生産に取り組んでいます。2030年度までに年間1,000万本のエリートツリー苗の生産体制構築を目指しており、自社林への植栽に加え外部への販売を通じて国内林業再生のモデルを構築します。
③ 先端技術の活用と環境価値の最大化
ドローンや航空レーザー計測などの先端技術を導入し、森林資源の把握と管理の効率化・省力化を進めています。これにより、J-クレジット創出など、森林の持つ環境価値の最大化に取り組んでいます。海外植林事業では、ゲノム情報利用による選抜育種で選抜期間を大幅に短縮し、生産性向上と収益改善を実現しています。
④ 生物多様性保全と水源涵養を通じた森林の多面的機能の維持
シマフクロウ保護区設定やシラネアオイ保全活動支援など、生物多様性に配慮した森林管理を実践し、水源涵養機能の維持・向上に努めています。全国約9万ヘクタールの社有林で持続可能な森林経営を行い、木材生産だけでなく、水源保全、災害防止、CO2固定、花粉症対策など、年間約3500億円に相当する森林の多面的な機能の便益を提供しています。
森に生きる生き物たち
日本の豊かな森林は、多種多様な生き物たちの宝庫です。特に、絶滅危惧種であるシマフクロウは、清流が流れ、豊かな魚が生息する森林を必要とし、森の健全さを示す象徴です。日本製紙グループの社有林では、シマフクロウの保護区を設定するほか、木材生産を行うための施業林においても、彼らが頻繁に利用する区域を守りながら施業を行うなど、貴重な生物が安心して暮らせる環境の保全と経済活動の両立を図っています。また、森にはキツネやシカ、様々な種類の鳥類だけでなく、リスやテン、ムササビなどの哺乳類、カエルやヘビなどの両生類・爬虫類、そして無数の昆虫たちが生息し、複雑な生態系を形成しています。 シマフクロウ(画像提供:(公財)日本野鳥の会)

森を彩る植物たち
森の足元には、季節ごとに様々な表情を見せる植物たちが息づいています。例えば、可憐な花を咲かせるシラネアオイは、豊かな森林環境でしか見られない希少な植物の一つです。日本製紙グループでは、シラネアオイの保全活動を支援し、その生育環境を守る取り組みを行っています。その他にも、ブナやミズナラといった広葉樹、スギやヒノキなどの針葉樹が織りなす多様な植生は、森の景観を豊かにするだけでなく、土壌の保全や水源涵養にも重要な役割を果たしています。社有林に生息するこれらの植物たちは、森の生態系を支える基盤であり、その多様性を守ることは、森全体の健全性を維持するために不可欠です。

⑤ 海外植林事業の推進と資源確保

ブラジルとオーストラリアで計約7万ヘクタールの植林地を管理し、精鋭樹の植林と持続可能な調達を通じて、海外での森林資源確保と環境保全に貢献しています。特にブラジルのアムセル社では、独自の育種技術によりユーカリの生産性を倍化させ、事業収益を飛躍的に改善しました。海外事業の営業利益も拡大しており、今後は東南アジアへの展開も計画しています。
海外の現場
ブラジルのアムセル社やオーストラリアの植林地では、当社の技術と経験が活かされています。例えば、ブラジルのアムセル社では、独自の育種技術によるユーカリの優良品種開発と増殖技術により、事業買収後15年で面積当たりの森林資源の生産性が倍化し、事業収益の飛躍的な改善を実現しました。さらに、ゲノム情報利用による選抜育種を世界で初めて実用化し、選抜期間を大幅に短縮するなど、最先端の技術を導入しています。これらの海外の現場では、現地の気候や土壌に適した樹種を選定し、効率的な植林と管理を行うことで、森林資源の確保と環境保全の両立を目指しています。
5 社有林を育む人々
I. エリートツリー推進室、研究室の紹介
日本製紙グループでは、エリートツリーの普及と技術開発を推進するため、日本製紙のグリーン戦略推進部にある「エリートツリー推進室」と基盤技術研究所内の「森林資源研究室」が連携して活動しています。推進室は、エリートツリーの苗生産から供給、普及戦略の立案と実行を担い、林野庁や自治体、既存サプライヤーとの連携を強化しています。一方、研究室では、エリートツリーの種子生産技術のさらなる向上、効率的な苗生産技術の開発、さらにはエリートツリー植栽後の調査など、最先端の技術の追求に加え、エリートツリー植栽による効果検証を行っています。これらの部署が一体となって、日本の林業の未来を切り拓くために日々尽力しています。


