ニュースリリースTEMPO酸化セルロースナノファイバーを用いた包装材料の共同開発~バイオマス原料からつくられた、環境に配慮した高機能包装材料の実用化を目指す~

日本製紙株式会社
凸版印刷株式会社
花王株式会社

日本製紙株式会社(代表取締役社長:芳賀義雄)、凸版印刷株式会社(代表取締役社長:足立直樹)、および花王株式会社(代表取締役社長:尾崎元規)は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを利用した包装材料の開発を共同で行うことに合意しました。
この共同開発は、本年4月に、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「ナノテク・先端部材実用化研究開発プロジェクト(ステージII)」に採択されています。
3社は、それぞれの持つ技術力を連携させ、生分解性を持ち、耐熱性や酸素バリア性に優れる高機能包装材料の実用化を目指します。

1.セルロースナノファイバーとは

セルロースは木材などの植物細胞の繊維の主成分で、植物を構成している物質の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物であり、紙の主原料(パルプ)としても知られています。
ナノファイバーとは太さ1ナノメートル(注1)から100ナノメートル程度の繊維のことです。このようなナノレベルの細い繊維は従来の繊維と比べると、1)比表面積(注2)が大きいため触媒や吸着剤として優れた効果を発揮する、2)分子が整って配列していることから、強度・弾性に優れる、などの性質を持ち、これまでにない新しい機能を持つ素材として期待されています。
特にセルロースナノファイバーは木材から作ることができ、生産・廃棄において環境負荷が小さいことから、その製造方法の研究、および用途開発が、国内外で盛んに行われています。

2.TEMPO酸化によるセルロースナノファイバーの作製(*添付1)

セルロースナノファイバーをつくるためには木材のセルロース繊維を細かくほぐすことが必要となります。セルロース繊維は、繊維と繊維が強固に結合しているため効率良く均一にほぐすことは困難でしたが、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科の磯貝教授らは、2006年、機能性触媒である「TEMPO(注3)」を用いて酸化することにより、セルロース繊維が容易にほぐれて、均一なセルロースナノファイバーとなることを世界で初めて見出しました。

3.TEMPO酸化セルロースナノファイバーの特徴とその可能性(*添付2)

TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、1)木質バイオマス由来で生分解性を有する、2)結晶性が高く耐熱性に優れる、3)透明性が高い、といった種々の優れた性質を持っています。
東京大学、日本製紙、花王は、NEDO「ナノテク・先端部材実用化研究開発プロジェクト(ステージI)」において、ポリ乳酸(注4)などのバイオマス由来の樹脂フィルムとTEMPO酸化セルロースナノファイバーを組み合わせて酸素透過性が低いフィルムをつくり、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの包装材料への利用可能性を検討しました。その結果、酸素を通しにくいという特性を生かし、食品等の保存を目的とする容器包装への活用など、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを用いた樹脂フィルムを、環境に配慮した高機能包装材料として実用化する可能性を見出しました。

4.今後の展開について

このステージIの成果を踏まえて、日本製紙、花王および、ガスバリア包装材料の生産で高い技術力を有し、ステージIにアドバイザーとして参加した凸版印刷の3社は、本年4月にNEDO「ナノテク・先端部材実用化研究開発プロジェクト(ステージII)」に応募し、採択されました(プロジェクト期間:2010年4月から2012年9月まで)。
今後、3社が連携して、最適な木材原料の選定からTEMPO酸化セルロースナノファイバーの製造・品質の向上、パッケージ化および最終製品における包装材料としての性能評価まで、一貫した研究開発を効率的に行ってまいります。また、3社はプロジェクトと並行して、具体的な実用化に向けて、市場性やコストなどの事業採算性の見極めを行ってまいります。

  1. 注1ナノメートル 1ナノメートルは百万分の1ミリメートル
  2. 注2比表面積  単位重量あたりの表面積
  3. 注3TEMPO(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル)
  4. 注4ポリ乳酸:トウモロコシなどに含まれるデンプンなどからつくられるバイオマスプラスチック

以上