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バイオ燃料で拓くグリーン電力の未来

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NEDOへ申請した計画の期間内に、実証実験で必要なデータを収集しなければならない。まず新倉が行ったのは、木質燃料をトレファクションするための最適な条件を見つけることだ。
「木資材を炭化する時の温度や時間の条件を変えて、最適なトレファクション条件を見つけることが最初の課題でした。それによって、作られる燃料の質が大きく変わってくるからです。結果的には、ある一定の条件にすることで、木質を構成するセルロース、リグミン、ヘミセルロースのうち、ヘミセルロースだけが気化して消失することが分かりました。そうすると、木材特有の粘りや強度が低下して、圧縮加工が容易になるほか、純度の高い燃料となるので、原料バイオマスの90%程度の熱量が残るのです。これまでの木資燃料の熱量は、原料バイオマスの40%まで減少してしまっていたので、これは大きな飛躍でした」(新倉)。

成功をもたらした逆転の発想とは?

最適なトレファクション条件が見つかった後は、大型の実証機による製造実験が次なる課題である。木質材を原料にしたバイオマス燃料は、トレファクションし、ペレットという状態に固めて完成となるのだが、実証機を稼動させる段階で思わぬ問題がおきた。安定的にトレファクションを行うことができないのだ。
「研究所にある小さな実証機レベルでは成功していたのですが、徳島県の小松島にある大型の実証機で、それを安定的に再現しようとしても、どうしてもうまくいかないのです」。小さな実証機レベルでの成功は、いわば机上の域を出てはいない。大型機での実証実験が成功してはじめて、ビジネスとして成り立つ見通しが立つのである。新倉は徳島と東京を何度も行き来して、解決策を見いだすことに奔走した。何度も条件を変えて、試行錯誤をくり返すうちに

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徳島県小松島にあるトレファクション実証機

新倉が思いついたのは、予めペレット化してからトレファクションするという逆転の発想だった。
「それまでは、トレファクションしたものをペレット化しようとしていたのですが、先にペレット状にしたものをトレファクションすることで、やっと大型の実証機レベルで、バイオ燃料の実用化を確立することができたのです。しかも、トレファクション前の原料と比べて、7分の1の減容化が可能になったのです」(新倉)。
この時作られたトレファクション燃料を用い、工場のボイラーで実機燃焼テストが行われた。工場にはボイラーの操業を管理するボイラースタッフがおり、彼らにとっても新燃料の使用は挑戦となる。そのため、新倉とボイラースタッフは、入念な準備を重ねテストに挑み、当初予定通りの燃焼効果を得ることができた。これにより、大型実証機によるトレファクションの基礎技術は確立したと言える。

時代のニーズの先を読む

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大型実証機での実験が成功したら、いよいよ大型生産プラントの建設である。単位時間あたりの生産量が増えれば、それだけ生産コストが下がるので、大型生産プラントの建設は、ビジネスを成り立たせるためには必須の条件となる。しかし、大型生産プラントを作る事ができるメーカーは、現状では国内に存在しない。そこで、プロジェクトの舵取り役である小野は、プラントの建設を海外のメーカーと手を組んで行おうとしている。さらにそこには、研究開発部門として経営判断の一翼を担い時代のニーズを的確に読む、小野の戦略があった。
「まずは国内で、これまでにない規模の実証機を作ってノウハウを蓄積しましたが、最終的には海外にプラントを建設して現地の市場に売ることを、事業化のスタートと位置づけています。なぜかというと、欧米にはバイオ燃料の市場が確立されているからです。欧米は制度上、バイオ燃料を高く買い取る仕組みができていて、EUは、2020年までにCO2削減目標を立てているので、バイオ燃料は作ると必ず売れるのです。そういう点では、日本国内での生産プラント建設は、時期尚早ではありますが、写真2012年7月からは、再生可能エネルギーの全量買取制度も施行されています。今は震災による電力不足で、火力発電を頼りにする傾向がありますが、この事態が落ち着いたらCO2を削減しようという時期が、日本にも必ずくるでしょう。その時が日本国内においての真のビジネスチャンスになると思います」(小野)。

日本製紙は、古くから発電設備の運用ノウハウを持つだけでなく、木質バイオマス資源の調達力、社有林を含む国内外の広大な所有地、長年にわたる木材化学技術の蓄積など、エネルギー事業の推進に生かせる強みを数多く有している。その強みを最大限に活用して、エネルギー事業を収益化することは、環境保全にも大きく貢献することとなる。さらには、ディーゼル車が普及しているヨーロッパ市場に向けて、木資材によるバイオディーゼルの開発も、今後取り組むべき課題である。再生可能資源である「木」を生かした持続可能なグリーン電力ビジネスは、これからも非常に大きな可能性を秘めているのだ。

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小野 裕司
Hiroshi Ono

研究開発本部総合研究所新素材研究室
兼技術研究開発本部
エネルギー事業部主席研究員

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新倉 宏
Hiroshi Shinkura

研究開発本部総合研究所
新素材研究室主査

※所属・役職は取材当時のものです。

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