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バイオ燃料で拓くグリーン電力の未来

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電力事業のビジネス化に貢献するプロジェクトが、急ピッチで進行していた。2012年6月、日本製紙が「パルプ原料にならない木材チップや樹皮などの木質材料を利用した、新しいバイオ燃料を開発した」というニュースが新聞各社に取り上げられた。その背景には、製紙会社にとって社会的使命ともいえる、グリーン電力(再生可能エネルギーによって得られる電力)への取り組みを飛躍的に発展させ、電力事業のビジネス化に貢献するプロジェクトが、急ピッチで進行していた。プロジェクトの成功によって形を現したグリーン電力の未来とは?
※所属・役職は取材当時のものです。

製紙会社がグリーン電力のキーとなる?

写真そもそも紙が主力製品である製紙会社が、なぜグリーン電力の未来を担うのか。まず大前提として、紙を製造する工程では、大量の電力エネルギーを使用するため、多くの製造拠点では火力発電(ボイラー、タービン)による大型の自家発電設備を備えている。その発電能力は原発2基分にも相当し、電力会社以外では国内最大規模である。加えて、紙の原料である「木」は、人の手で育てることのできる再生可能資源であり、バイオマス発電のエネルギーとしても利用できる有用な資源だ。木質燃料を燃やした場合に発生する二酸化炭素は、木が成長過程で光合成により大気中から吸引した二酸化炭素に由来する。そのため、過去に固定化されたCO2を排出する石炭や石油などの化石燃料とは異なり、大気中のCO2濃度を全体として増やさない。この性質はカーボンニュートラルと呼ばれ、持続可能な社会を構築する上で重要な意味を持つ。もし紙の原料としては使えない木屑やペーパースラッジ(廃棄物)などの木質材を、石炭に代わる燃料として火力発電に用いる方法が確立し、実用化されれば、バイオマス発電、すなわちグリーン電力の発展に大きく貢献することとなるのだ。

目指すは、新たなバイオマス燃料の実用化

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プロジェクト発足当初の目的を振り返って、推進役である主席研究員・小野裕司は、こう語る。 「日本製紙では、環境に対する企業努力として、CO2排出量を1990年比で20%削減する目標を掲げていました。当社の事業活動におけるCO2排出量の多くは、石炭の燃焼によるものです。これをカーボンニュートラルなバイオ燃料に置き換えることで、CO2排出量を大幅に減少させることができると考えたのです」。

当初は、CO2排出量削減のための研究課題であった木質燃料の実用化だが、2012年2月のプロジェクト発足後に起こった東日本大震災により、その研究はさらに重要な意味を持つものとなる。

写真「原発問題による電力不足解消のために、国による再生可能エネルギー全量買取制度が始まり、収益化の可能性が大きくふくらみました。これからの日本は、社会全体の命題であるグリーン電力の推進に加えて、電力取引の自由化がますます進んでいくはずです。そこを見据えて、バイオマス燃料の実用化は、会社として急ピッチで取り組むべき最重要課題となったのです」(小野)。
実は、これまでにも木質材を加工して、石炭火力に使用することはあったが、熱量が一定ではない、水分が多いために燃焼制御が難しい、水を吸いやすく保管に難点があるなど解決すべき課題は多く、石炭と混ぜて使用することができるのは3%程度であった。
それらの課題をクリアにして、バイオマス燃料の生産を軌道に乗せることができれば、CO2排出量を大幅に削減して環境保全に寄与するだけでなく、自社の火力発電の燃料費コストダウンを実現し、さらには再生可能エネルギーの販売という新たなビジネスチャンスを手にすることができる。
バイオマス燃料の実用化プロジェクトが最重要課題として位置づけられたのは、製紙会社として必然だったといえるのだ。

トレファクションに挑む

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木質材の燃料化は、トレファクションという技術が用いられる。開発実験を担当した新素材研究室主査・新倉宏によると、トレファクション、すなわち半炭化/焙煎化の技術は、実は1980年代から90年代にはすでに理論化された技術だったという。
「トレファクションの実証機は、コーヒーの焙煎器にヒントを得て作られています。トレファクションの技術自体は、バイオマス利用の一環として、20~30年前から理論化されていたのですが、バイオエタノールなどの研究に重点が置かれて、注目を集めることはありませんでした。ただし、オランダのエネルギー研究所が地道にその研究に取り組み、2005年にトレファクション技術の有用性に関する研究レポートを発表して以降、世界中で実証実験が行われるようになったんです。日本製紙では、もともと燃焼灰の処理研究や資源化検討のために分析設備は備えていたので、いつでも研究を開始できる体勢にはありました。ただ、2011年の2月にプロジェクトが始まったときは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金を得て研究を始めたので、期限内に結果を出さなければいけないというのが、プレッシャーになりましたね」(新倉)。

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